非結核性抗酸菌症(肺NTM症)
非結核性抗酸菌症とは?
非結核性抗酸菌症(肺NTM症)は、結核菌とは異なる自然界に広く存在する「非結核性抗酸菌」(NTM)が肺に感染して起こる慢性の呼吸器感染症です。
NTMは約200種以上ありますが、日本ではそのうち約90%がMycobacterium avium complex(MAC)による感染です。
肺NTM症は結核よりも患者数が多く、2022年の死亡者数は年間約2,360人であったとの報告もあります。
NTMは水や土壌といった生活環境中に常在しています。
浴室、シャワーヘッド、台所、庭作業などによる吸入を通じて感染するとされ、人から人への直接感染は一般的に起こりません。
原因と好発リスク
NTMの感染には宿主の脆弱性が大きく関与しています。
特に以下の方が発症しやすいとされます:
- 中高年以降の痩せ型女性
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支拡張症、間質性肺炎などの既往歴
- 糖尿病、慢性腎臓病、自己免疫疾患(RA、膠原病等)、悪性腫瘍などの基礎疾患
- ステロイド・免疫抑制薬・生物製剤の使用歴
またガーデニングや土いじり、水回りの利用頻度が高い方にも注意が必要です 。
症状
初期は無症状か軽微な咳や痰にとどまり、風邪や気管支炎と見間違えられることも多いですが、進行すると以下の症状が現れます:
- 慢性の咳・痰(場合によっては血痰)
- 倦怠感、軽度の微熱、体重減少
- 呼吸困難(肺組織の破壊や空洞形成による)
放置すると肺の繊維化や気管支拡張を引き起こし、最終的には呼吸不全や死亡に至るケースも報告されています。
診断
診断には複数の検査が必要です:
- 胸部画像検査(X線・CT)
結節影、すりガラス影、空洞、気管支拡張などの所見を確認。 - 喀痰検査(塗抹・培養)
最低2回以上の検体提出が推奨され、菌種同定と薬剤感受性検査も重要です。 - 血液検査
炎症マーカー(CRP、白血球)、栄養状態(アルブミンなど)を評価。 - 結核菌との鑑別
IGRAやPCR検査により結核を否定し、NTMと区別します 。
日本の診断基準では、①臨床症状や画像所見、②定義された回数以上の培養陽性、③他疾患の除外、の3要件を満たすことが必要です 。
治療
日本結核・NTM学会のガイドラインに基づき、以下を慎重に判断します:
- 症状の程度と画像所見の存在・進行
- 喀痰中の菌量
- 問題となる菌種(特にMAC、M. kansasii、M. abscessus等)
- 患者の全身状態・基礎疾患
治療が必要と判断される場合には多剤併用療法が基本で、マクロライド系(クラリスロマイシン/アジスロマイシン)を中心にリファンピシン、エタンブトールなどが併用されます。
治療期間は1年以上(通常は12~24カ月)続けられ、副作用(肝機能障害、聴覚/視覚障害など)が出た場合は薬剤調整が必要です。
重症例にはアミカシン吸入や注射による追加治療、耐性菌への対応が行われることもあります 。
また、進行が緩やかで症状が軽い場合には「経過観察」を選択することもあります 。
当院では、慢性の咳や痰が続く方に対して、胸部CT、血液検査、喀痰検査を組み合わせた診断アプローチを行います。
肺NTM症と診断された場合は、患者様個々の病態を見極め、副作用に注意しながら多剤併用療法を実施しますが、必要に応じて、大学病院や基幹病院と連携して診療しています。
慢性的な咳・痰、特に微熱・体重減少、血痰がある方、あるいはすでに肺NTM症で治療中の方は、お気軽に当院へご相談ください。
